第13講 M&Aの仲介 専任と非専任 どっちが有利?
M&Aを正しく活用する時代
第13講 M&Aの仲介 専任と非専任 どっちが有利?
目次
M&Aの仲介を依頼する場合の契約形態
M&Aで、自分の会社を売ろうとする場合、仲介をする業者さんに、依頼をかけます。その場合、専任契約と、非専任契約の形態が選べます。
専任契約とは、その契約の業者さんだけを窓口にして、相手企業を探す方法です。非専任契約は、他の業者さんにも、相手企業を探す依頼を行うことができます。
仲介の業者さんは、どちらも、専任契約を勧めてきます。ただ、その業者さんが、真剣に仕事をしてくれるかはわからず、窓口をいろいろな会社に広げる非専任契約のほうが、早く相手が見つかるようにも思うでしょう。
では、M&Aの場合、専任契約と非専任契約の、どちらを選ぶべきでしょうか?
不動産仲介の媒介契約と比較する
この専任と、非専任という仲介の形態の種別があるのは、M&A以外では、不動産業界です。
不動産における仲介を規制する宅建業法では、専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約の3種類を定めています。
M&Aの専任と、非専任は、宅建業法の専任媒介契約と、一般媒介契約に相当します。
不動産を売却したい場合、M&Aよりも短期間の専任媒介契約で売却を依頼するのが適切といわれています。
一般媒介契約の場合、複数の業者が買い手を探すことになりますが、通常、一般媒介契約を締結しても、不動産ではうまく売却できません。いくつものの業者で売ったほうが、窓口が広がるように思いますが、残念ながら、そうなりません。
現在の不動産業界の場合、不動産テックが進み、どこかの一社が専任で販売をかけますと、その登録情報は、他の不動産業者が閲覧し、検索することができるようになります。そうなりますと、専任でも、一般よりも窓口が狭くなることはありません。
一方で、業者は、専任の場合、一般に比較して、短期間のうちに売却をしなければ、専任の期間が徒過してしまいますので、強い売却努力を行います。
他の業者に窓口を広げるとともに、自分がもっている投資家情報を買い顧客に個別に情報を提供し、売却を短期間で進める努力をします。
そにため、一般よりも専任のほうが、早く売却が決まるケースが多くなります。
M&Aも、同じで、専任のほうが、非専任よりも、早く売却が決まります。
非専任に潜む落とし穴 「出回り案件」化とは?
一方、M&Aには、不動産の売却にはない事情があります。
M&Aは、いかなる案件も、それが極めて高い機密性を持つということです。売り側企業にとっては、従業員や取引先にM&Aで動いていることがわかれば、離脱を招きかねず、企業価値の大幅な下落を招きかねません。
また、買い側企業にとても、M&Aの買収計画は、企業の戦略ベクトルそのものであり、対競合での情報戦で漏洩が許されるものではありません。
そのため、M&Aには、絶対的な秘密保持が重要になります。
非専任で売り側が買い手を探す場合、複数の仲介業者が介在し、その業者が労力をかけずに、成果を求めようとするため、ノンネーム情報は広くM&A業界に流通します。このような状態になった案件を、「出回り案件」と業界では呼びます。
買い側企業からみると、いくつもの業者から同じ売り情報を齎されますので、優良な買い手企業は、このような出回り案件に手を出しません。また、仮に買いに入ってきたとしても、売り急ぎの状況をみて、値を下げる交渉に出てきます。
非専任での契約で、多くの業者に取り扱いを認めると、多くの買い側の情報をえられるように思いますが、それは、M&Aの場合、粗悪な買い手を引き寄せるだけになります。
M&Aでが、粗悪な取引は、非常に不幸な結果を招きます。
自社の目的に応じて、有利な形態を選ぼう
一方、非専任の契約がうまく機能する案件もあります。
それは、M&A業界でいう、「コンペ」にできるほどの優良案件です。
会社に長年にわたって積み上げられてきた、優良な固定資産(土地・建物、知的所有権等)が大量にあり、純資産も厚く、将来の収益もストック型の固い収益が積みあがることが予想できるような案件で、財務等のディスクロージャーやコンプライアンスに全く問題がない、優良企業の場合、買い方をオープンで募って、そのコンペを開き、最高値をつけた企業に独占交渉権を与えて、株価を引き上げて売る方法が、コンペ案件に向くのです。
このような場合には、数社の仲介会社から幅広い投資会社に声をかけ、高値をつけた投資会社と交渉をするわけです。
このような会社の場合、仲介会社の役割は、単に、高値を出す投資会社とマッチングできるかということになりますので、その能力や経験値は問われません。
このような場合は、専任契約をしないほうがよいでしょう。
しかし、一般の中小企業の場合、財務等のディスクロージャーやコンプライアンスに全く問題がないというような売り企業を、少なくとも、僕は、いままでに、見たことがありません。
そうなると、トップ面談以降のディスクロージャーや、デューディジェンスでの折衝は、相当な経験が必要となり、そのような能力のない仲介会社の担当者では、あとで、大きな法的な問題を引き起こすことが予想されます。
このようなケースでは、信頼できるM&Aアドバイザーが専任でついてくれるM&A仲介会社を専任として依頼するのが、適切だと思います。
専任契約の場合の注意点
今、M&Aの仲介やアドバイザリーのサービスを提供しているとして、中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録している団体は、2000社以上あります。しかし、今の日本のM&A自体が、増大をしてきたといっても、年間4000件程度しか成立していません。
大手M&A仲介企業は、単体で、年間数十件の案件をまとめていますので、中小のM&A仲介会社が成立させている案件は、非常に少ないのが実情です。
したがって、今の段階で、日本で、M&Aの実務経験を持っている専門家は、大手M&A仲介会社や金融機関・投資を行う買い手企業で経験と実績を積んだ人以外は、ほぼいません。
大手M&A仲介会社は、もちろん、経験を積んだ専門家を抱えていますが、仲介手数料は非常に高く、中小の企業を売るには、手数料負担が大きいのが難点です。
一方で、安価な手数料を提示しているM&A仲介会社は、事実上、不動産の仲介をやってきた方や、弁護士・会計士としてデューデリジェンスという局部的なM&Aの場面にかかわった経験を持っている方が、仲介を始めたりされて、業界は、「荒れ模様」を呈しています。
買い方企業には、専門家はいるものの、新規事業のスピードをあげたいという理由だけで、文化の異なる企業を安易に買い、その後に苦労をするケースが目立ちます。
一方で、売り方企業は、いたずらにM&Aを怖がったり、誤解をしたまま手を出したりされています。
このような状態で、日本では、M&Aという形態は、まだまだ幼少期の未成熟な段階にあり、アメリカ東海岸のように、熟練したプレーヤーが少ないのが現状です。
そのような中で、成功報酬の高さにつられて、業界に参入する仲介のプレーヤーだけが、激増しているような状況です。
この現状を、よく理解され、ご自身の目的とM&Aの規模にあったパートナーを充分吟味して、M&Aの専任契約を締結することをお勧めしたいと思います。
続く
成長企業M&Aサービスのご紹介
強い成長を目指す企業(成長企業)と、投資によってスピードある新規事業の参入を目指す企業(投資企業)の、資本提携をM&Aの手法で実現する成長企業M&A
成長企業M&Aとは、成長期にあるベンチャー企業や中小企業と投資企業を仲介し、飛躍的成長を遂げるために、M&Aという手法で資本提携関係を結ぶ手法です。
URVプランニングサポーターズが提供する「成長企業M&A」で、企業の成長力・資金力を飛躍的にアップし、事業成長の壁を打ち破ります。
本稿の著者
株式会社URVプランニングサポーターズ代表取締役 兼 エグゼクティブコンサルタント
松本 尚典
- 米国公認会計士
- 一般財団法人M&Aアドバイザー協会認定M&Aアドバイザー
日本の大手銀行から、ニューヨーク ウオール街での金融系コンサルタント業務を経験した後、日本に帰国し、国内の大手企業数社の役員の歴任。この間、M&A大国アメリカで、数多くのクロスボーダーM&Aや、TOB案件を纏めあげ、そしてまた、日本でも多くのM&A案件を投資企業側の責任者として纏めた、豊富なM&A実務経験を有する。
2015年にURVグローバルグループのホールディングス会社で、経営支援事業を本業とする、株式会社URVプランニングサポーターズ(松本尚典が100%株主、代表取締役)を設立。多くの中小企業の経営者の経営顧問や監査役として、中小企業の成長戦略に関わる。
こうした業務の中で、投資企業側の事情と、投資を受ける中小企業側の事情の双方に精通する知識と経験を活かし、成長企業への投資案件に特化した、成長企業M&A事業に進出する。